【王女の男】あらすじ・登場人物まで徹底解説

韓国時代劇「王女の男」は史実に基づいた部分と朝鮮王朝版ロミオとジュリエットのような仇同士の家の二人が切ない恋物語を掛け合わせた作品です。実際のモチーフになった史実は、朝鮮王朝時代第5代王文宗の弟首陽大君がわずか11歳で即位した6代王の甥の端宗を陥れるクーデター「癸酉靖難(ケユジョンナン)」です。

史実の流れと作品の中の構成は違っていますが、太宗から端宗まで4代の王に信頼されたキム・ジョンソ、宿敵でありクーデターを起こした首陽大君も登場します。伝統時代劇独特の雰囲気や重さと親同士の宿命の波にもまれ、復讐と後悔を繰り返し翻弄されていくというフュージョン時代劇の魅力を両方とも楽しめる今でも大人気の作品です。

2011年の作品なので、だいぶ前にもう見たという方や、私のように何度見てもまた見ちゃう…そんな方、最近時代劇の面白さに目覚めて「王女の男」が気になっていた方もいるでしょう。このページではあらすじと主要な登場人物の説明と、作品の中で出てくる時代劇特有の用語や慣習もちょっと知っていると面白いのでお伝えできればと思います。

なお、ネタバレも含みますのでまだご覧になっていない方はご注意くださいね。

「王女の男」あらすじ

セリョンとスンユの初めての出会い

作品のタイトルが「王女の男」なので、王女はセリョンでその相手がスンユということを想像しますが、二人の最初の出会いは全く別の立場で始まります。
1452年、第5代王文宗の時代が舞台です。
虎視眈々と権力の座を狙う文宗の弟首陽大君が、文宗と文宗が信頼する重臣キム・ジョンソ、スンユの信頼関係を決裂させるため自分の娘セリョンとキム・ジョンソの息子スンユを縁組し、仲たがいさせようと考えていました。
敬恵王女の講師になると知ったセリョンは、見合い相手のスンユに興味が沸き、イタズラ心で王女になりすまして講義を受けます。

親同士の策略や権力争いとは別の穏やかな時の流れの中にいるいとこ同士の敬恵王女とセリョン、王女になりすましたセリョンと講師スンユの淡い恋…しかしなぜか命を狙われるスンユ。次第に運命が動き出します。

首陽大君の仕組んだ罠にかかり、極刑に?

王女のふりをしたセリョンの縁組相手だったはずのスンユですが、首陽大君とキム・ジョンソの関係に敏感になった文宗がスンユを敬恵王女の婿にすると宣言してしまいました。

王女のふりをしたセリョンを乗せた馬が暴走するのを間一髪助けたスンユは、汚れた彼女の服を変えるために二人で妓楼へ立ち寄りますがそのことがのちのち「スンユが敬恵王女を連れ出し妓楼で淫らな行いをした」として捕まってしまいます。

セリョンが女官だったと思い込んでいるスンユは、事実を言えばセリョンの命が危なくなると具体的な弁明ができず、一方セリョンも事実を打ち明けようとしても敬恵王女がそれを許さず…すべて首陽大君が仕組んだ罠で、極刑、死罪にという声まで上がります。

抑えられない気持ち。幸せは続かない

死罪は免れたスンユですが、自分の命を助けるために父キム・ジョンソが辞任したことを知り、大きな犠牲を父に払わせてしまったことを後悔します。その後悔の念からセリョンに背を向けるスンユですが、お互いを想う気持ちは抑えられません。

首陽大君の娘だとは言えないまま女官のふりをし続けますが、ある日父がキム・ジョンソとキム・スンユの暗殺を企てていることを知り、危険を知らせようと何度もスンユの家に向かおうとしますがそのたびに見つかり、とうとう閉じ込められてしまいます。
家同士が敵対していることを知ったセリョンは、なんとか命を救おうと服を破り、指を噛み自らの血でスンユに伝言を届けます。

このあたりから二人の未来が複雑で見ているほうも辛い場面が続きます。最初の頃の穏やかな両家の娘・息子の笑顔が消えていくのが見ていて辛かったです。

父と兄を殺され親友にも裏切られ復讐の鬼に

屋敷に戻ってきたスンユは、親友シン・ミョンにも裏切られ、目の前で兄と父を失い、姪と義理の姉も奪われ自らも瀕死の重傷を負い山に捨て置かれます。
必死の思いで街に戻ったスンユが見たのは父のさらし首と、自分たちを陥れた首陽大君の長女として首陽を出迎えるセリョンの姿でした。

きらびやかな衣装に身を包み涼し気な目で穏やかにほほ笑むスンユが、その目に絶望感と憎しみを忍ばせ復讐の鬼と化していきます。
ここからは衣装も黒や汚れた服が多く、目つきも鋭い「ダーク・スンユ」です。

地獄の苦しみを味わうスンユ、無残に打ち砕かれる指輪

復讐の鬼と化していくスンユの憎しみはセリョンにも向けられますが、セリョンは変わらずスンユを助けようと必死で父に抗議します。
再び捕らえられたスンユの処刑当日には自分の首筋に刀を当て父に直談判をし、幼い王端宗の王命のおかげもあってスンユは助かりますが流刑に処されます。

ここでもまだ、キム・ジョンソの執拗な企ては終わらず、スンユたちは船を沈められてしまいます。鎖でつながれたまま命からがら島に泳ぎ着き、都に戻ってきます。もうスンユの心には復讐の思いしかありません。

スンユの残った家族をお世話するセリョン、お寺でスンユから贈られた大切な指輪を何者かに奪われ「命よりも大事なものだから返してほしい」と訴えますが、指輪は砕かれてしまいます。

指輪を砕いたのはスンユなのですが、スンユは海で死んだと思っているセリョンは気付かずにどれだけ指輪が大切なのかを訴えるシーンには涙が出ました。ちなみにこの指輪はカラッチと呼ばれる2連の指輪で、夫婦一身を表す今でいう結婚指輪です。

背中に刺さる矢 セリョンの無償の愛

シン・ミョンとの婚礼の朝、スンユに誘拐されるセリョン。生きていたことを感謝するセリョンとは反対に、首陽大君を殺すためのおとりに使ったあと殺してやると敵意をむき出しにします。どんなに苦しい思いをしたのかと「自分を殺すことで和らぐなら何度でも命を差し上げます」と抵抗もしないセリョンを見て心が一瞬揺らぎますが…
首陽大君をおびき寄せるためにセリョンを連れて出ますが、待ち構えていたシン・ミョンが放った矢から身を挺してかばったセリョン。

本当にこのシーンは辛いです。無防備にスンユに命を差し出そうとしているセリョンの無償の愛が言葉だけでないというのがこの行動でスンユにも分かったと思いますが、スンユももう引き返せなくなっています。

家か恋か。父と決別する、セリョン。

次々と人の命を奪い、幼い甥から王の座を奪い、まだ足りず自分の地位を脅かすものを排除し続ける父にとうとうセリョンは自分の髪を切って父との縁を切ります。
家か恋か…悩んだ末の決断ですが、この行動の裏には昔の穏やかな愛情深い父親に戻ってほしいという想いが込められていたのだと思います。

手のかかる分「誰かにお前をやるのは惜しい」と愛情を注いできた娘にこんな風にまでされても前に進む首陽大君も辛そうな表情を見せはするものの後戻りはもうできず…

数々の困難と悲しみを超え結ばれた愛、しかし…

スンユとともに生きることを選んだセリョン。つかの間の夫婦のような幸せな時間を過ごしますが、それも長くは続かず。親友で敬恵王女の夫チョン・ジョンもまた、スンユを守るために身重の王女を残し一人処刑されます。
手塩にかけた娘に反旗を翻されるほど悪いことをしたのかと自分に問う首陽大君も血で手を汚し続けていきます。

地獄でもどこでも最後まで一緒に行くと決めたセリョンとスンユですが、もう首陽大君を討てるのはスンユしか残っていません。最後4話ほどは、目をそむけたくなるような辛い場面が続きます。どんどん登場人物が命を落とし、恋人から夫婦になったふたりもいつ命を落としてもおかしくない状況に陥っていきます。
「どこまでもついていく」と決意したセリョンが見せる命がけの愛の結末は涙が止まらず、しばらく放心状態になってしまいました。

「王女の男」主な登場人物

キム・スンユ(パク・シフ)

宗学講師でキム・ジョンソの息子。父が文宗から信頼された重臣だったために、縁組を絡めた策略にはまり、家族を首陽大君に殺された後はそれまでの穏やかで世渡り上手な姿とは一転、復讐の鬼と化します。王女になりすましたセリョンと恋に落ちますが首陽大君の長女であると知り、復讐と愛情の間で悩みもがきながらも亡くなった仲間の遺志、父親の無念を晴らす道を突き進みます。

イ・セリョン(ムン・チェウォン)

王族の娘とは思えないおてんばで好奇心旺盛な首陽大君の長女。持ち上がった縁談の相手スンユがいとこの敬恵王女の講師だと知り、王女のふりをして代わりに講義を受け続けるうちにスンユと恋に落ちます。しかし、父首陽大君の企てによってふたりは敵対関係になってしまいますが自分の想いを貫き、父に背きスンユを選びます。

敬恵王女(ホン・スヒョン)

第6代王端宗の姉でセリョンとはいとこ同士。仕組まれた結婚でパッとしないチョン・ジョンと結婚します。王女の地位をはく奪され、運命の波に飲まれていきますが、その中で夫との愛を育みスンユたちと一緒に弟、端宗の復位を狙います。夫のためにプライドを捨てて命乞いをしたり、夫の意を組んで処刑に向かうのを見守る姿は最初の頃のわがまま放題の王女とは別人のようです。

シン・ミョン(ソン・ジョンホ)

スンユとチョン・ジョンの幼いころからの親友。ふたりと同じように宗学の長イ・ゲの教え子です。しかし父親シン・スクチェが首陽大君側に付いたことで、スンユ、チョン・ジョンとは対立する立場になってしまいます。セリョンに想いを寄せ、スンユに激しく嫉妬します。友情と父の間で最後の最後までもがき苦しみながらも親友に刀を向け、手を汚し…壮絶な最期を迎えます。

チョン・ジョン(イ・ミヌ)

もともとは宮廷の重職を務めるほどの父を持つ名家の息子ですが、父が死亡したことにより没落し病気の母親と一緒に暮らしています。借金取りに追われたりだらしない部分もありますが、町で一目ぼれした敬恵王女の夫に選ばれたことで人生が一転します。コミカルな男から王女のため、端宗のため、スンユのために戦う男として立ち上がります。

キム・ジョンソ(イ・スンジェ)

スンユの父。「大虎」の異名を持ち、文宗から厚い信頼を得ている重臣です。厳しい表情が多く、王に忠義を貫き息子スンユにも厳格な父親です。スンユと敬恵王女の縁談を進めていましたが、首陽大君の企てにより息子の命と引き換えに役職から退きます。文宗死後、再び復帰しますが首陽大君が立ちはだかります。

首陽大君/のちの世祖(キム・ヨンチョル)

首陽大君でのちの世祖です。兄の文宗が生きているころから虎視眈々と王位を狙い、文宗亡きあとは史実に残る「癸酉靖難(ケユジョンナン)」を企てます。幼い甥、端宗から王位を奪い、野望のためならあらゆる手段で敵を排除し甥や重臣たちを次々に殺害していきます。一方で娘セリョンに対してはひどい仕打ちをしながらも、奥底では娘を愛する父親です。

「王女の男」作品に出てくる気になる用語・シーン

成均館の官僚「直講」と宗学の関係性

妓楼(妓生を集めて宴会をしたり宿泊もできる場所)で目を覚まし、妓生からのキスマークを付けたまま宗学に講師として出向いたスンユですが、宗学とは礼法や教育全般を統括する官庁のひとつで王族の子息たちが家庭教師や教育係を担当していました。

ひとつ前の第4代世宗時代に設立され最高学府の成均館の官僚が兼任をしています。成均館といえばドラマ好きの方ならすぐにドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」を思い出す方も多いでしょう。入学試験は難しく難関でしたが入学できれば将来は安定するといわれていました。

そんなおなじみの成均館ですが、国を背負うエリートを育てる学校で、金銭的余裕があり勉強もできる両班の子息などが入学していましたね。スンユは成均館の「直講」という官職についていました。

実際は複雑な王族の結婚のしきたり

作品の中では、文宗が礼式を略してスンユを敬恵王女の婿として指名しますが、実際は王の一声で決まることはありません。大ヒットしたドラマ「太陽を抱く月」では世子に嫁ぐ妃候補を選ぶのにたくさんの複雑な手順を踏んで未来の王妃候補が決まりましたが、それは王女の婿選びも同じです。

王女の婚礼は「吉礼(キルレ)」と呼ばれ、身分年齢相応の家には、結婚を禁止する「禁婚令」が言い渡されます。候補に選ばれた子息たちは書類審査を終え「揀擇(カンテク)と呼ばれる面談を3度行い、最終候補が選ばれるのです。

ブランコ遊び「クネトゥイギ」ってなに?

スンユとセリョンが町を歩いて見物していた時、ブランコに乗って高さを競ったシーンがありました。なぜ女性におしとやかさが求められる時代に、馬に乗ることさえ止められていたのに、結構な高さまであがるブランコ?と思いませんでしたか?

この遊びは「クネトゥイギ」といって、旧暦5月5日端午の節句になると村の入り口にブランコが設置されました。自由に外出できなかった女性たちが外で遊ぶことができる数少ない機会で人気の遊びだったようです。高さを競い花を取る以外にも鈴のついた竿を設置し蹴った時の音の大きさを競うという遊び方もあったそうです。

敬恵王女の婚礼にみる華やか王女の婚礼衣装

韓国時代劇の醍醐味のひとつが、衣装の艶やかさです。特にどんな時代を舞台にしても王族の婚礼シーンは赤や青といったはっきりした衣装が多く、思わず目を奪われるほどです。現在の韓国でもこの伝統を大切にした式スタイルがあり、私も友人カップルの式に参列したことがありますが目の前で時代劇で見たような風景と動きの美しさに終始見とれてしまいました。

敬恵王女とチョン・ジョンの婚礼シーンで王女が身に着けているのは「ファルオッ」や「円形」と呼ばれる衣装で袖には富、栄誉、長寿、優雅の意味がある花や鶴が刺繍されています。王女は結婚すると宮廷を出て暮らしますが身分は王女のままで、婿には従一品という品級が与えられます。

癸酉靖難とは。

物語のモチーフになっているのが癸酉靖難(ケユジョンナン)という史実にも残るクーデター事件なので、実際に存在した人物が作品の中にもたくさん出てきます。

朝鮮王朝第5代王・文宗の弟、首陽大君が起こしたクーデターで朝鮮史の中でも有名な事件です。文宗は体が弱く、2年しか王位に就くことができませんでした。文宗亡きあと12歳の端宗が第6代として即位、首陽大君にとって端宗は甥にあたります。

実力があり王の風格がある自分を差し置いて病気がちの文宗、そして幼い甥が王位に就いたことが我慢できなかった首陽大君。即位したころから計画を立て、1453年10月10日に首陽大君がキム・ジョンソをはじめ多数の重臣たちを殺害し、端宗から政権を奪い1455年ついに第7第王世祖が誕生します。

非道な人物として描かれていますが世祖は弱くなっていた国王の力を取り戻し、数百年続いた王朝の基礎を作ったという功績もあります。ほかの作品でも出てくることの多い世祖、機会があったら是非ご覧になって見比べてみてくださいね。

セリョンが父の前で髪を切った覚悟と意思

シン・ミョンが父親を裏切ることができず、親友と対立するようになった理由のひとつに朝鮮時代の儒教の影響が大きいと考えられます。儒教の中でも「孝」を重要視した社会で、親を敬うことを最優先させるべきことだという教えです。王に対する忠誠心でさえその「親に従う事」の延長線上にあると考えられていました。
同じように親からもらった体に傷をつける行為も大きな罪とされていた時代です。

コメディタッチで描かれていましたがドラマ「屋根部屋のプリンス」でも、現代へタイムスリップしてきた世子たちが髪を現代に合わせ切るシーンがありましたね。

父と決別するセリョンが父親の前で自ら髪を切る姿はそれだけ意志が固い証拠です。また髪を切った小刀は「銀粧刀(ウンジャンド)」と呼ばれるもので、女性の貞節を守るために身に着けていた装身具です。毒に反応する銀をつかっていることから毒味にも用いられていました。

王女から最下層の奴婢へ

父と対立を続けるセリョンが父である世祖からシン・ミョンとの結婚ではなく、シン・ミョンの使用人になるように言い渡されるシーンがあります。使用人とは身分は「奴婢」です。

よく時代劇で出てくる「奴婢」ですが、奴婢は朝鮮王朝時代の身分制度の中では最下層の身分です。
官庁に属するものを「官奴婢」個人宅で労働するものを「私奴婢」と呼び、セリョンの場合はシン・ミョンの使用人なので私奴婢ということになります。その人の所有物となり、その名の通り「物」として時には売られたり譲渡される厳しい身分です。

「王女の男」まとめ

 

いかがだったでしょうか?

スンユとセリョンだけでなく、敬恵王女とチョン・ジョンの物語にも愛がたくさん詰まっているので、ぜひ注目していただきたいです。
借金取りからチョン・ジョンが逃げ込んだのがお忍びで町に出ていた王女の輿でした。王女だとは夢にも思わないチョン・ジョンが「美女だといわれる王女よりもきっと美しい」と一目ぼれします。そして婚礼の日、結婚相手の王妃がその時の女性だと気づくのです。
結婚や恋愛が自由にできない時代で、決められた結婚とはいえ一目ぼれした相手と添い遂げられたチョン・ジョン。彼もまた「王女の男」だったのではないかと思うのです。

中盤からは次の回を見るのが辛い時間が続きますが、見た方はもう一度、そして、まだの方はぜひ視聴してみてくださいね。ラスト3分がグっと胸に響きます。

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